一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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スポーツ界の透明性向上に向けて:松本マラソン不正会計問題から学ぶ教訓

近年、スポーツ界における組織運営の透明性や健全性が、社会からより一層厳しく問われるようになっています。記憶に新しいところでは、国際的なスポーツ大会における不正な招致活動や、競技団体におけるパワハラ問題などが相次いで発覚し、スポーツの根幹を揺るがす事態となりました。

そして今回、私たちの目に留まったのは、松本マラソンにおける不正会計処理の問題です。報道によれば、おととしの大会で実際には1500万円余りの赤字であったにもかかわらず、運営委託費を少なく計上するという不正な処理によって、市の担当者が赤字を隠蔽していたとのことです。市民の期待を背負い、地域を盛り上げるはずのスポーツイベントの裏側で、このような不正が行われていたことは、極めて遺憾と言わざるを得ません。

この問題を受け、松本市の臥雲市長は、法律や会計の専門家による検証組織を速やかに立ち上げる意向を示しました。市議会も今年の大会の中止を了承し、第三者による検証を求めており、事態の解明と再発防止に向けた動きが始まったことは評価できます。

しかし、この一件は単に一地方自治体のマラソン大会における問題として捉えるべきではありません。スポーツに絡む団体や協会は、その活動が公共性を持つ場合が多く、市民や支援者からの信頼によって成り立っています。それゆえ、会計処理を含む運営全般において、高い透明性と倫理観が求められるのは当然のことです。

今回の不正会計問題は、以下の点で私たちに重要な教訓を与えてくれます。

第一に、内部牽制の重要性です。会計処理においては、担当者一人に権限が集中するのではなく、複数の担当者によるチェック体制や、定期的な監査が不可欠です。今回のケースでは、担当者による不正が見過ごされてしまった背景に、適切な内部牽制が機能していなかった可能性が考えられます。

第二に、外部の視点の導入です。組織内部の人間だけでは、どうしても慣れや甘えが生じやすく、不正が見過ごされるリスクがあります。第三者による監査や、専門家による定期的なチェック体制を導入することで、不正の早期発見や抑止につながります。松本市が外部の専門家を交えた検証組織を立ち上げることは、この点で重要な一歩と言えるでしょう。

第三に、組織文化の醸成です。不正は、個人の倫理観の問題であると同時に、組織全体の文化に根ざしている場合もあります。透明性を重視し、不正を許さない組織風土を作り上げることが、長期的な不正抑止には不可欠です。

スポーツは、人々に感動や喜びを与え、健康増進にも寄与する素晴らしいものです。しかし、その運営に関わる団体や協会が、不正や不透明な運営を行っていては、その価値は大きく損なわれてしまいます。

今回の松本マラソンの問題を教訓として、スポーツ界全体が、より一層の透明性向上と健全な運営体制の構築に向けて真摯に取り組むべきです。そのためには、各団体や協会が自主的な改革を進めるだけでなく、関係省庁や自治体も連携し、不正を抑止するための法整備やガイドラインの策定を検討する必要があるでしょう。

市民やファンからの信頼を取り戻し、スポーツ本来の輝きを取り戻すために、私たちは今回の問題を深く掘り下げ、未来への教訓として活かしていく必要があります。

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