一般社団法人 日本公認不正検査士協会

ACFE JAPAN

NEW CFEコラム

信頼を守る不正対策とは─メルカリの新方針にみるCFE的視点

2024年5月、メルカリが「安心・安全なマーケットプレイスの実現」に向けて大きな方針転換を発表しました。不正利用者に対しては「徹底的な排除」、正しいユーザーに対しては「徹底的な救済」という、非常に明快で強いメッセージです。

この新方針を、私たちCFE(公認不正検査士)の視点で見つめてみると、不正リスク対策における重要な原則がいくつも体現されていると感じます。

まず注目すべきは、不正の「未然防止」から「積極的排除」へと姿勢を転換した点です。AI技術を活用したリアルタイム監視の強化に加え、9月から稼働予定の「メルカリ鑑定センター」は、不正の“兆候”を見逃さず、早期に対応する体制を構築するものです。これは、不正三角形で知られる「機会の排除」という観点から、組織としての統制力を高めている好例といえるでしょう。

一方で、被害に遭ったユーザーへの「全額補償サポートプログラム」(7月開始予定)は、「正直者が損をしない」取引環境の確保を意味します。これは、企業の信用維持というだけでなく、被害者保護を通じて内部通報や適切なエスカレーションを促す風土形成にもつながると考えられます。補償の明文化と迅速な対応は、被害の再発防止と信頼回復に向けた重要なステップです。

さらに、8月から始まる「透明性レポート」の定期的な公開は、内部統制の観点でも非常に注目されます。自社のリスク状況を定量的に開示するという姿勢は、ガバナンスの成熟度を示すものであり、外部ステークホルダーとの信頼関係の構築にも寄与します。

CFEとして活動している私たちは、不正対策の目的が単なる摘発や罰則強化ではなく、「健全な組織運営」と「持続可能な信頼構築」にあると理解しています。その点で今回のメルカリの発表は、予防・発見・対応・回復という不正対策のフルサイクルをバランスよく整備した取り組みだと評価できます。

マーケットプレイスに限らず、あらゆる組織がこのような包括的な不正対策を求められる時代です。リスクを「見える化」し、ルールを「機能させ」、被害者を「守る」体制づくり。それこそが、CFEの専門性が最も活かされる領域です。

メルカリの挑戦は、不正のない健全な社会の実現に向けて、私たちに多くの示唆を与えてくれています。

CONTACT

入会申し込み 相談・お問い合わせ