ガバナンスの本質を問う:食品表示不正からブラジルの先進事例に学ぶ、信頼回復への道筋
最近、大手コンビニエンスストアで消費期限の表示を偽るという不正が発覚し、社会に衝撃を与えました。 一部の店舗で行われたとされるこの行為は、製造ルールを逸脱し、消費者の安全と信頼を根底から揺るがすものです。 このような不正はなぜ起きてしまうのでしょうか。そして、失われた信頼を回復し、健全な組織を築くために何が必要なのでしょうか。
この問いに対し、地球の裏側ブラジルで進められている先進的な「食料ガバナンス」の取り組みが、私たちに本質的な示唆を与えてくれます。ブラジルの事例は、ガバナンスとは多様な主体が協働し、意思決定を行うための制度的枠組みであり、いわば**「食をめぐる公共性の設計」**であることを教えてくれます。 この視座は、企業の不正対策と真の信頼回復を考える上で、新たな光を当てるものです。
ガバナンスとは「社会的契約」である
ブラジルでは、政府、企業、市民社会、地域コミュニティなどが協働し、食料の生産から消費までの意思決定を行う「食料ガバナンス」が国家的な取り組みとして進められています。 その中核を担うのが、市民社会の声を行政に反映させる「国家食料栄養安全保障評議会(CONSEA)」です。 ルーラ大統領は「飢餓は政治の問題であり、無責任な政府によって生まれる」と明言し、食料へのアクセスを市民の権利と位置づけ、この評議会を復活させました。
これは、ガバナンスを単なる「制度」や「管理」ではなく、**国民との「社会的契約」**として捉え、その責任と倫理を真正面から受け止める姿勢の表れです。 翻って企業の不正問題を考えると、消費期限の偽装は単なるルール違反ではありません。それは、安全な食を提供するという、消費者との間に結ばれた暗黙の「社会的契約」を一方的に破棄する行為に他なりません。不正の根源には、利益追求を優先し、この倫理的な責任を軽視する組織風土が存在すると言えるでしょう。
制度と「現場」を繋ぐガバナンスの実践
ブラジルのガバナンスが優れているのは、国家レベルの制度設計だけでなく、それが地域や現場レベルの実践と有機的に連動している点です。 例えば、州のプログラムでは、家族経営の小規模な農産加工品の合法化を支援しています。 注目すべきは、かつて非公式に生産されていた伝統的な蒸留酒カシャッサが、この支援によって衛生基準や税制要件を満たし、地域ブランド認証を得て正式な市場で価値を高めている事例です。
これは、トップダウンの制度が現場の実態や文化と接続し、ポジティブな変革を生み出した好例です。 一方で、今回のコンビニの事例では、本社が定めた「商品製造ルール」という制度が、23店舗という「現場」で遵守されていなかったことが問題の本質です。 なぜルールは破られたのか。現場の過度なプレッシャーか、モラルの欠如か、あるいは本社の監督不行き届きか。真の原因を究明し、制度と現場の乖離を埋める対話と仕組みがなければ、再発防止は困難です。
CFEの役割:信頼の再設計
不正は、ひとたび起これば企業の存続を揺るがす深刻な事態に発展します。消費期限の表示誤りが発覚した企業は、対象商品の販売を中止し、全店舗での改善が完了するまで再開しないという厳しい対応を迫られました。
私たち公認不正検査士(CFE)は、このような不正の調査、原因究明、そして再発防止策の構築における専門家です。しかし、私たちの役割はそれだけにとどまりません。ブラジルの食料ガバナンスが「公共性の設計」であるように、私たちは**企業の「信頼の再設計」**を担う存在です。
それは、単にルールを強化することではありません。現場の従業員から経営者、そして消費者や社会との間で「対話」を促し、組織の倫理観を高め、誰もが納得できる公正なルールを再構築することです。失われた信頼を取り戻す道は、透明性の高い調査と、社会への誠実な説明責任、そして二度と不正を許さないという断固たる決意を示すことから始まります。
企業が社会との「社会的契約」を再認識し、倫理に基づいた健全な経営を取り戻すために、私たちCFEは専門的知見をもって貢献してまいります。