ガバナンス・コード改訂:真の「稼ぐ力」は、強固な不正対策基盤から
2025年10月21日、金融庁がコーポレートガバナンス・コード(CGC)の3度目となる改訂に向けた有識者会議を開催したとの報道がありました。2026年半ばの改訂を目指す今回の議論は、「企業の稼ぐ力を向上させるため、資本コストや株価を意識した経営を促進する」方針に基づいているとされています。
私たちACFE JAPAN(一般社団法人日本公認不正検査士協会)は、日本企業の競争力強化に向けたこの取り組みを歓迎すると同時に、不正対策の専門家集団として、この議論に不可欠な視点を提示したいと思います。
それは、「稼ぐ力」の追求が、時に不正リスクを高める「圧力(プレッシャー)」と表裏一体であるという事実です。
「資本コストや株価を意識した経営」が過度に進むと、経営陣や現場には短期的な業績向上への強烈なプレッシャーがかかります。公認不正検査士(CFE)が依拠する「不正のトライアングル理論」によれば、この「動機(圧力)」は、「機会」と「正当化」と並び、不正発生の三大要因の一つです。
過去、日本で起きた多くの大規模な会計不正事件を振り返っても、その背景には「市場の期待に応えなければならない」「掲げた目標を達成しなければならない」という過度な圧力が存在していました。
「稼ぐ力」を追求するあまり、コンプライアンスや内部統制が二の次にされ、不正の「機会」が生まれてしまう。あるいは、「会社のためだ」「この目標を達成するためには仕方ない」といった「正当化」の心理が働く。これが不正のメカニズムです。
真の「稼ぐ力」とは、短期的な株価や利益ではなく、持続的な成長によってもたらされるものです。そして、その持続的成長の基盤は、投資家、従業員、顧客、社会といったあらゆるステークホルダーからの「信頼」に他なりません。
ひとたび不正が発覚すれば、その「信頼」は瞬時に失われ、レピュテーションは毀損し、株価は下落し、結果として「稼ぐ力」そのものが根底から覆されます。
したがって、これからのコーポレートガバナンス改革において重要なのは、「稼ぐ力(攻めのガバナンス)」の追求と同時に、それを支える「不正リスクマネジメント(守りのガバナンス)」をいかに実効性のある形で組み込むかです。
不正対策は、単なる「コスト」ではありません。それは、企業のレピュテーションと持続可能性を守り、長期的な企業価値を担保するための「投資」です。
2026年半ばの改訂に向けた議論においては、「稼ぐ力」の重要性を説くと同時に、その前提として、不正を許さない企業文化の醸成、内部通報制度の実効性確保、内部監査の強化、そして経営陣自らが主導する不正リスク評価の重要性についても、踏み込んだ言及がなされるべきです。
私たちACFE JAPANは、新しいコーポレートガバナンス・コードが、企業の「健全性」と「透明性」こそが真の「稼ぐ力」の源泉であるという視点に立った、実効性の高い指針となることを強く期待します。