信頼の再構築に向けて ― 不適切会計が示す「組織文化」のリスク
2025年10月23日、ニデック株式会社は2026年3月期の業績予想を未定とすることを発表しました。背景には、グループ内で発覚した不適切会計の疑いがあり、現在、第三者委員会が詳細調査を進めています。中間配当の無配、自己株式の取得中止など、一連の発表は市場に大きな動揺をもたらしました。
■ 数字の問題ではなく「文化の問題」
不適切会計はしばしば「数値の改ざん」という表層的な事象として報道されますが、その根底には「組織文化」の問題が横たわります。
過度な業績目標、上意下達の風土、内部通報が機能しない環境などが、不正の温床となりやすいことは多くの事例が示しています。
公認不正検査士(CFE)は、こうした環境的要因を分析し、再発防止策を設計する上で「人」と「組織」の行動原理に焦点を当てます。
単なる統制強化ではなく、「なぜ不正が起きたのか」「なぜ止められなかったのか」という構造的原因に迫ることが求められます。
■ 第三者委員会への期待と限界
第三者委員会の設置は、事実関係を中立的に検証し、再発防止を提言するための重要な手段です。
しかし、委員会の独立性が確保されていなければ、形式的な調査に終わる危険もあります。
CFEをはじめとする不正対応専門家が調査チームに参画し、データ分析・ヒアリング・取引検証を通じて「実態」を浮き彫りにすることが、真の信頼回復への第一歩となります。
■ ガバナンスを「運用」する力
ガバナンス体制は設計するだけでは機能しません。
経営トップの倫理的姿勢、取締役会の監督機能、内部監査の独立性、そして従業員の声を拾い上げる通報制度の運用が、日々の企業活動の中で息づいてこそ意味を持ちます。
ニデック事案は、日本企業全体に対し、「ガバナンスの形式的整備」から「倫理を基盤とした運用」への移行を迫る警鐘と言えるでしょう。