一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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夢の国の裏側で起きた背信行為:ディズニー元従業員によるメニュー改ざん事件から学ぶ倫理と不正対策

米国ウォルト・ディズニー・カンパニーの元従業員が、社内サーバーへの不正アクセスとメニュー改ざんという信じがたい行為により、禁錮3年の実刑判決を受けました。この事件は、単なるシステムへの不正侵入という枠を超え、企業の倫理観、不正の抑止、そして不正調査のあり方について、私たちに重要な問いを投げかけています。

マイケル・シュアー被告は、メニュー作成担当マネジャーという職務権限を悪用し、価格の不正変更や不適切な文言の挿入に加え、特筆すべきはアレルギー情報の悪質な改ざんでした。ピーナツを使用する食品を「ピーナツ不使用」と偽る行為は、食物アレルギーを持つ顧客の生命と健康を著しく危険に晒す、極めて非倫理的な行為と言わざるを得ません。

この事件は、組織における倫理観の欠如が、いかに重大な結果を招くかを示唆しています。シュアー被告は、自身の職務が顧客の安全に直結しているという認識を欠いていたか、あるいは意図的に無視していたと考えられます。企業は、従業員一人ひとりが高い倫理観を持ち、その重要性を理解するための継続的な教育と啓発活動を徹底する必要があります。

不正の抑止という観点からは、内部統制の脆弱性が浮き彫りになりました。メニュー作成という重要な業務において、一人の担当者に広範なアクセス権限が与えられ、その行為を監視する仕組みが十分に機能していなかった可能性があります。二重チェック体制の導入やアクセスログの監視、異常な操作に対するアラート機能の実装など、多層的な不正抑止策を講じることの重要性が改めて示されました。

また、今回の不正が、フォントの変更という些細な異常から発覚したことは、不正調査における初期兆候の重要性を示唆しています。従業員がシステムの不具合に気づき、それを報告したことが、結果的に大規模な不正行為の発見につながりました。企業は、従業員が些細な疑念でも報告しやすい風通しの良い組織文化を醸成するとともに、報告された情報を適切に調査し、真実を究明する体制を整備する必要があります。

幸い、今回は改ざんされたメニューが顧客に提供される前に発見されましたが、一歩間違えれば取り返しのつかない事態を招きかねませんでした。この事件を教訓として、企業は倫理教育の徹底、強固な内部統制の構築、そして迅速かつ効果的な不正調査体制の確立に、より一層真剣に取り組むべきでしょう。夢と魔法を提供するエンターテイメント企業でさえ、このような不正が発生しうるという現実を直視し、組織全体で倫理観を高め、不正を許さない組織文化を醸成していくことが、信頼を守るための不可欠な責務と言えるでしょう。

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