不正会計はなぜ起きるのか
―CFEの視点で読み解くニデック問題―
モーター大手のニデックで発覚した不正会計疑惑を巡り、第三者委員会の調査報告書が公表されました。調査では、過去の損益を修正した場合、車載事業を中心に約2500億円規模ののれんや固定資産が減損対象となる可能性があることが示されています。また、買収先企業などで不正会計が相次いで発覚し、コンプライアンス体制や内部統制の浸透が十分ではなかった実態も明らかになりました。
今回の事案は、企業不正の典型的な構造を示しています。公認不正検査士(CFE)の視点から見ると、不正は多くの場合「不正のトライアングル」と呼ばれる三つの要素によって発生します。すなわち「プレッシャー(動機)」「機会」「正当化」です。
まず「プレッシャー」です。報告書では、業績目標の達成に向けた強い圧力が組織全体にかかっていたことが指摘されています。創業者の永守重信氏をはじめとする経営幹部による叱責や厳しい要求があったとされ、組織内では目標達成が最優先とされる文化が形成されていた可能性があります。このような環境では、従業員が数値目標を達成するために不適切な会計処理に手を染めるリスクが高まります。
次に「機会」です。同社は積極的なM&Aによって急速に事業を拡大してきました。企業買収は成長戦略として有効な手段ですが、買収先企業の内部統制やコンプライアンス文化を十分に統合できない場合、不正の温床となる可能性があります。特に海外子会社や複数の事業部門を抱える企業では、統制の網が行き届きにくく、不正が発見されにくい状況が生まれやすくなります。
そして三つ目が「正当化」です。今回の調査では、「負の遺産」と呼ばれる資産性に疑義のある資産が長期間滞留していたことも指摘されています。本来であれば減損処理を行うべき資産であっても、その処理が部門や子会社の業績を悪化させるため、処理が先送りされる構造があったとされています。このような状況では、「今は一時的に処理を遅らせるだけ」「いずれ取り戻せる」という心理的な正当化が生まれやすくなります。
企業不正は、単に一部の従業員の倫理観の問題として片付けられるものではありません。組織文化、評価制度、内部統制の設計など、企業のガバナンス全体が大きく関係しています。特にM&Aを積極的に行う企業では、買収後の統合プロセスにおいて、内部統制とコンプライアンス文化をいかに浸透させるかが極めて重要になります。
今回の事案は、日本企業におけるガバナンスの課題を改めて示す事例と言えるでしょう。CFEの観点から見れば、不正の兆候は必ずしも突然現れるものではなく、多くの場合、組織文化や制度の歪みの中で徐々に形成されていきます。企業が持続的に成長するためには、業績目標の達成だけでなく、不正を未然に防ぐ仕組みと倫理的な企業文化を構築していくことが不可欠です。