信頼を揺るがす情報持ち出し問題:日生グループに問われるガバナンス
日本生命保険(日生)グループで発覚した、銀行などへの出向社員による大量の内部情報無断持ち出し問題は、単なる一社の不祥事にとどまらず、金融業界における信頼性とガバナンスのあり方を厳しく問うています。
グループ全体で繰り返された不正
今回、日生の完全子会社であるニッセイ・ウェルス生命保険(ウェルス社)からも、2つの金融機関から計943件もの内部情報が不正に取得されていたことが明らかになりました。これは、日生本体で発覚した600件と合わせると1543件という膨大な数に上ります。
特に問題視されるのは、「グループ一体で不正が繰り返されていた」という点です。
持ち出された情報は、銀行の保険販売方針、行員の業績評価、他社商品の改定情報など、出向元の親会社(日生)が自社商品の販売戦略を優位に進めるために極めて有用な情報ばかりです。
・不正取得の目的: 銀行側の販売戦略などを把握し、自社商品を効果的に売り込むため。
・情報の経路: ウェルス社の出向者 →ウェルス社の社員→親会社の日生(102件を提供)。
・手口: スマートフォンで資料を撮影するなど、極めて安易な方法で情報が共有されていました。
無断で持ち出された資料には、日生内で「逆流厳禁」と注意書きがされていたという事実も、この不正な情報収集が組織内で暗黙の了解のもとにあったことを示唆しています。
経営責任と処分の軽重
一連の問題を受け、日生とウェルス社は処分を公表しましたが、その内容には疑問が残ります。
担当役員らは減給処分となった一方、朝日智司社長、清水博会長、前会長の筒井義信特別顧問のトップ3名には処分がなく、報酬の一部を自主返納するに留まっています。
グループ全体にわたる大規模かつ組織的な不正行為であったにもかかわらず、経営トップが処分対象とならないのは、責任の所在を曖昧にするものと受け取られかねません。情報の不正取得が顧客情報を含む金融機関との信頼関係を根底から崩す行為であることを考えれば、組織風土の抜本的な改善に向けた、より厳しい姿勢を示すべきではないでしょうか。
コラムが提起する課題
この問題は、出向という形態を利用した情報収集のモラルハザードと、親会社による子会社を利用した不適切なガバナンスという、複数の課題を浮き彫りにしています。
金融機関は、顧客の資産を預かる立場として、最も高いレベルの倫理観と情報管理体制が求められます。日生グループは、信頼回復のために、再発防止策の徹底はもちろん、なぜこのような不正が長期間にわたり、グループ全体で許容されていたのかという組織風土の根源的な問題にメスを入れる必要があります。