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成長企業に潜む会計不正のリスク ー AI企業「オルツ」の事例から読み解く不正の構造と教訓

2025年7月、AI議事録サービスなどを提供する急成長中のベンチャー企業「オルツ」において、過去5年分の売上の最大9割が過大計上であったことが、第三者委員会の調査により明らかとなりました。この問題を受け、東京証券取引所は同社を「監理銘柄(審査中)」に指定。上場から1年も経たずに、経営の根幹を揺るがす不正が発覚する事態となっています。

■ AIベンチャーが直面した不正会計の実態
調査によれば、同社は主力サービスである「AI GIJIROKU」の取引において、実際には使用実績のない有料アカウントを売上として計上していました。さらに、広告宣伝費や研究開発費として販売パートナーに資金を流し、その資金を広告代理店などを通じて売上として回収する、いわゆる「循環取引」も行っていたとされます。

このような粉飾は、表面的には事業が順調に拡大しているように見せかけ、投資家やステークホルダーに誤解を与えるだけでなく、企業価値の正当な評価を著しく歪める重大な不正行為です。

■ スタートアップにおける「急成長」と「統制不備」
ベンチャー企業やスタートアップは、技術革新や市場開拓を武器に急速な成長を遂げる一方、内部統制の整備やガバナンス体制の構築が追いつかないケースも少なくありません。

今回の事例でも、Jスタートアップ採択や上場といった華々しい実績の裏で、売上至上主義や資金調達のプレッシャーが、不正を誘発する環境を生んだ可能性が指摘されています。また、取引の実態を正確に把握する仕組みや、第三者的視点からの牽制機能が欠如していた点も、深刻な課題です。

■ 不正を防ぐ「仕組み」と「人材」の重要性
本件は、AIやテクノロジー分野においても、「不正リスク」は決して無縁ではないことを改めて示す事例です。特に、以下の3点が教訓として挙げられます。

循環取引や架空売上など、基本的な不正スキームは業種を問わず起こり得る

上場や急成長の過程で、内部統制と企業倫理の醸成が軽視されやすい

不正の予兆に気づき、早期に対処できる専門人材や監視体制が不可欠である

企業における不正対策は、制度やルールのみならず、倫理観と専門知識を兼ね備えた人材によって支えられるべきです。公認不正検査士(CFE)は、不正の兆候を見抜き、組織内外における調査・予防・対応を担う専門家として、こうした事例への対応に大きく貢献することができます。

■ まとめ ー「透明性こそ、企業の信頼を守る力」
AIや生成系技術といった最先端分野においてこそ、企業の透明性や説明責任はより一層求められます。不正は、企業の成長を支える信用や投資を一瞬で失わせ、ひいては社会全体のイノベーション推進に水を差すことにもつながります。

一般社団法人日本公認不正検査士協会(ACFE JAPAN)は、不正防止と倫理的経営を支えるプロフェッショナルの育成・支援を通じて、すべての企業における健全なガバナンス体制の構築を引き続き推進してまいります。

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