第三者の視点が組織を変える─宝塚歌劇団のガバナンス改革に学ぶ
2023年9月、宝塚歌劇団に所属する若手劇団員が亡くなった痛ましい出来事は、社会に大きな衝撃を与えました。文化と伝統を背負う組織においても、健全な労働環境と内部統制が欠かせないという現実を浮き彫りにしたこの問題は、単なる一企業の課題にとどまらず、組織ガバナンスのあり方に対する警鐘でもありました。
このたび、運営元である阪急電鉄は、再発防止と組織体制の見直しを目的として「株式会社宝塚歌劇団」を新たに設立し、2025年7月1日に事業を移行することを発表しました。注目すべきは、新会社の取締役構成です。5名中4名を社外出身者とする体制とし、第三者による監督・助言機能を組織の中核に据える方針を明確に打ち出しています。
取締役には、JPX総研参与の宮原幸一郎氏や、トヨタ自動車元常勤監査役で、問題後に設置された「アドバイザリーボード」の座長も務めた加藤治彦氏が内定しており、専門性と独立性の高い人材が選ばれています。
このように外部の専門的視点を積極的に導入することは、透明性と説明責任を高めるうえで極めて有効です。私たちACFE JAPANでは、不正の兆候を見逃さず、持続可能なガバナンス体制を構築するためには、内部者の意識改革だけでなく、第三者の独立した監視の仕組みが不可欠であると考えています。
組織文化の改革には時間がかかります。しかし、自らの課題と向き合い、制度を見直し、外部の力を借りながら変革を進める姿勢こそが、信頼回復の第一歩です。今回の宝塚歌劇団の取り組みは、多くの企業・団体にとって、ガバナンス強化の在り方を再考する機会となるでしょう。
私たちは今後も、不正リスクへの対応力を備えた人材の育成と、実効性ある内部統制体制の確立を支援してまいります。