経営層に突きつけられた責任 ― 日本生命不正持ち出し問題からの教訓
日本生命保険で明らかになった社外秘情報の不正持ち出しは、単なる一企業の不祥事ではなく、生命保険業界全体の統治と倫理を揺るがす重大な問題である。最大手としての責任の重さを踏まえれば、経営層は本件を「現場の逸脱行為」と矮小化することなく、自らの監督責任として受け止める必要がある。
出向者13名による不正取得は6年近く継続し、役員や管理職を含む約270人に共有されていた。これは、明示的な指示がなかったとしても「組織的関与」を否定できるものではない。経営層がこの事実に目を背ければ、ガバナンスの欠如を一層露呈することになる。
また、発覚直後にデータが削除されたという行為は、隠蔽の意図があったか否かを問わず、倫理意識の欠如を如実に示している。危機発生時における現場対応の拙さは、そのまま経営トップのリーダーシップ不足として評価される。
ここで改めて強調すべきは、 経営層自らが「不正リスク管理」の主体である という点である。形式的な再発防止策や制度改変にとどまらず、企業文化の変革を率先して主導しなければならない。そのためには「不正は起きうる」という前提に立ち、潜在的リスクを特定・予防し、発覚時には迅速かつ透明性の高い対応を行う体制が不可欠だ。
この局面で重要な役割を果たしうるのが、 公認不正検査士(CFE) である。CFEは、不正の兆候を早期に見抜き、調査・分析を通じて原因を特定し、再発防止策を提言する専門家である。さらに、経営層に対して「不正を防ぐ企業文化の醸成」や「内部統制の実効性確保」について助言を行うことができる。今回のような不正が長期間放置された背景には、内部の自浄作用が機能しなかったことがある。だからこそ、外部専門家としてのCFEの知見を積極的に取り入れることが求められる。
生命保険業界は、顧客の信頼を基盤に成り立つ。経営層が自らの責任を直視し、CFEを含む専門家の力を活用して健全なガバナンスを築くことこそ、業界全体の信頼回復に不可欠であると考えます。