経営改革の象徴が陥った「経費不正」 ― フジ・メディア・ホールディングスの事案にみる教訓
フジ・メディア・ホールディングス(FMH)およびフジテレビの取締役であった安田美智代氏が、経費精算の不適切処理を理由に辞任したことが報じられました。報道によれば、2020年から5年間にわたり約60件、総額約100万円分の「事実と異なる経費申請」が確認されたとされています。
安田氏は報道記者として長年活躍し、ニューヨーク支局勤務時には2001年の米国同時多発テロを現地から最初に伝えるなど、卓越した取材力で知られていました。その後、経営企画部門へと異動し、経営陣の一角として抜擢されるなど、まさに“改革のリーダー”として期待を集めていた人物です。
しかし、その「改革の象徴」とされた人物による不正の発覚は、企業文化や内部統制の実効性に大きな疑問を投げかけます。今回の事案は金額規模としては大きくないものの、「改革を掲げた経営層自身がルールを逸脱していた」という点において、組織の信頼を大きく損なう結果となりました。
フジテレビ側は、経費精算の運用を今後AIを活用して厳格化する方針を示しています。AIによるチェック体制の強化は有効な手段の一つですが、それだけでは十分ではありません。
経費処理における不正や誤りの背景には、**「例外が許される文化」や「上位者に対する遠慮」**といった人の心理や組織風土が存在することが多くあります。経営層であっても同じ基準で透明に管理される環境がなければ、健全なガバナンスは機能しません。
不正防止の本質は、単なるシステムやルールの整備ではなく、**「信頼に基づく説明責任の文化を根付かせること」**にあります。
フジ・メディア・ホールディングスの事案は、経営トップを含めた全社的な倫理意識の再構築がいかに重要であるかを改めて示す出来事といえるでしょう。