一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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職務上の秘密と公益通報:元鹿児島県警生活安全部長、無罪主張

はじめに

2024年7月1日、職務上知り得た秘密を退職後に漏らしたとして、国家公務員法(守秘義務)違反の罪で起訴された元鹿児島県警生活安全部長被告(60歳)は、公判で無罪を主張する方針であることが明らかになりました。本稿では、この事件を中立的な立場から考察し、職務上の秘密と公益通報という二つの重要な概念について論じます。

事件の概要

被告は、霧島署員による巡回連絡簿の悪用や、枕崎署員の盗撮容疑事件など、警察内部の不祥事に関する情報を、札幌市の男性記者に書面で送付しました。その後、県警が別の情報漏洩事件の関係先として福岡市のウェブメディアを家宅捜索した際、この書面データが見つかった疑いがあると指摘されています。

被告側の主張

被告側は、自身の行為を「県警の隠蔽を公にしようとした公益通報ないしそれに準じる行為」であると主張しています。具体的には、以下の点を訴えています。

漏洩された内容は、公務員の職務に関する情報であり、国家公務員法で保護される「秘密」には該当しない

公益通報制度の要件を満たしており、違法行為ではない

県警による違法な捜索・差し押さえがあった可能性があり、証拠能力が認められない

県警側の主張

一方、県警側は、被告の主張を否定し、以下の点を反論しています。

漏洩された情報は、捜査情報や職員の個人情報を含む機密情報であり、公益通報の対象となるものではない

被告の行為は、国家公務員法上の守秘義務違反であり、正当化されない

ウェブメディアへの捜索は、適正な捜査手続きに基づいて行われた

論点

この事件は、職務上の秘密と公益通報という二つの重要な概念が衝突する複雑な問題を提起しています。

職務上の秘密

国家公務員法第100条は、公務員が職務上知り得た秘密を漏らしてはならないと定めています。この「秘密」には、公務の遂行に支障をきたすおそれのある情報や、国民のプライバシーに関わる情報などが含まれます。

一方、公益通報者保護法は、公務員が公金の不正使用や職務上の不正行為などの情報を公表した場合、その不利益を防止するために必要な措置を講ずることを定めています。

公益通報

公益通報制度は、公務員が組織内部の不正行為を告発することを奨励し、組織の透明性と公正性を確保することを目的としています。しかし、公益通報が認められるためには、以下の要件を満たす必要があります。

告発内容が真実であること

告発者が職務上知り得た情報であること

告発者が公の利益のために告発したこと

本事件における論点

本事件においては、被告が漏洩した情報が「秘密」に該当するかどうか、また、被告の行為が公益通報に該当するかどうかが争点となっています。

中立的な視点

現時点において、被告の主張が正しいのか、県警側の主張が正しいのかを判断することは困難です。今後、裁判所による審理を通じて、詳細な事実関係が明らかにされ、それぞれの主張の妥当性が判断されることになるでしょう。

考察

職務上の秘密と公益通報は、公共の利益と個人の利益、組織の利益と個人の権利の間で、常に難しいバランスが求められる課題です。今回の事件を契機に、これらの概念について改めて議論を深め、より良い制度を構築していくことが重要であると言えるでしょう。

留意点

本稿は、あくまでも中立的な立場から事件を考察したものであり、いかなる立場にも与することはありません。

事件に関する情報は、現時点の報道に基づいており、今後新たな事実が判明する可能性もあります。

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