財務諸表の信頼性が揺らぐ今、企業は何をすべきか
近年、上場・非上場を問わず粉飾決算や不適切会計の発覚が相次ぎ、財務諸表に対する社会の信頼が大きく揺らいでいます。財務諸表は、金融機関の融資判断や商取引の基盤であるだけでなく、従業員や株主の信頼を維持するための重要な情報基盤です。しかし、東京商工リサーチが2025年7月末から8月初旬にかけて実施したアンケートによれば、自社の決算処理について「信頼性が高いと言い切れる」と回答した企業は87.9%にとどまり、9割には届きませんでした【出典:東京商工リサーチ「財務諸表の信頼性に関するアンケート」2025年8月】。
信頼性を阻む3つの背景
専門家依存
「信頼性が高いと言い切れない」「どちらともいえない」と回答した企業の50%は、決算処理が会計士や税理士任せになっているとしています。特に中小企業でこの傾向が顕著です。
人材不足
経理・財務部門の人手不足も28.1%が理由として挙げています。会計基準や税法改正に迅速に対応する体制が整っていない現実があります。
基準変更の頻発
第一次産業や不動産業など、監督官庁や業法の縛りが比較的厳格な業種でも、「頻繁に税法や会計基準が変わるため」という理由が多く見られました。
粉飾と誤謬を区別しない危うさ
今回の調査では、意図的な数値改ざんである「粉飾」と、会計処理の誤りによる「誤謬」を区別していません。広義ではどちらも「不適切会計」に含まれますが、明らかな粉飾を誤謬と同列に扱う姿勢は、企業の説明責任を曖昧にし、ステークホルダーの信頼回復を妨げます。
ガバナンス強化への提言
財務諸表の信頼性を守るためには、以下の3点が不可欠です。
内部監査機能の実効性向上
形式的な監査ではなく、リスクベースでの監査計画立案と実施を行う。
経理・財務部門の専門性確保
資格取得支援や継続的な研修を通じて、社内知識の蓄積を進める。
不正兆候検知の仕組み構築
データ分析や内部通報制度を活用し、兆候段階で不正を把握する。
粉飾や不適切会計は、一度発覚すれば企業価値の急落や資金繰り悪化を招き、事業継続すら危うくします。ガバナンスの再構築は、単なる形式整備ではなく、実効性を伴う運用が求められています。私たちACFE JAPANは、企業が健全な財務基盤を維持し、社会的信頼を回復・維持するための実務的知見と研修を今後も提供してまいります。
出典:東京商工リサーチ「財務諸表の信頼性に関するアンケート」(2025年8月実施)