一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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CFEコラム

進化する不正広告との攻防:デジタル空間の健全性維持に向けた一考察

Googleが発表した2024年の「Ads Safety Report」は、デジタル広告領域における不正対策の最前線を示すものとして、大変興味深い内容です。特に、生成AI(大規模言語モデル、LLM)を活用し、51億件もの不正広告をブロックまたは停止したという事実は、不正の手口が高度化・巧妙化する現代において、テクノロジーが不正対策に不可欠な役割を果たしていることを改めて示唆しています。

レポートで注目すべき点は、不正アカウントを広告掲載前に高精度で検知し、排除する能力が著しく向上していることです。3920万件以上のアカウントが広告配信前に停止されたという事実は、AIが不正の兆候を早期に捉え、被害を未然に防ぐ上で極めて有効であることを示唆しています。これは、不正検査の領域においても、データ分析やAIといったテクノロジーの活用が、不正の早期発見と抑止に貢献し得る可能性を示唆するものです。

また、著名人のなりすまし広告や詐欺広告といった、消費者を欺く悪質な手口に対するGoogleの取り組みも重要です。AI技術と専門家チームの連携による対策は、巧妙化する不正の手法に対抗するための多角的なアプローチの必要性を物語っています。ディープフェイク動画のような新たな脅威に対する検知モデルの開発も、不正の手口の進化に対応するための不断の努力の表れと言えるでしょう。

広告主の本人確認プロセスの強化、そして90%以上の広告が本人確認済みの広告主によるものであるという現状は、デジタル広告の透明性と信頼性を高める上で重要な進展です。不正な広告の背後にいる主体を特定することは、不正行為の抑止、そして万が一被害が発生した場合の責任追及において不可欠な要素です。

Googleが強調する「予防」の視点は、不正対策における基本原則と合致します。不正が発生した後に対処するのではなく、事前にリスクを特定し、未然に防ぐことの重要性は、不正検査の現場においても常に意識されるべき点です。広告が不承認となった理由を明確に伝える透明性の向上への取り組みも、広告主との信頼関係を構築し、健全な広告エコシステムの維持に貢献するでしょう。

今回のレポートは、デジタル広告という特定の領域における不正対策の事例ではありますが、その根底にある考え方、すなわちテクノロジーの活用、多角的なアプローチ、予防重視の姿勢、そして透明性の確保は、あらゆる不正対策に通じる普遍的な原則と言えます。

ACFE JAPANとしても、このようなテクノロジーを活用した不正対策の動向を注視し、その知見を会員の皆様と共有することで、より効果的な不正対策の推進に貢献してまいりたいと考えております。デジタル空間における不正の脅威は増大していますが、テクノロジーと人間の知恵を結集することで、その脅威に対抗し、より安全で信頼できる社会の実現を目指していくことが重要です。

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