検査体制の強化から見える、不正防止の本質 ― 地域金融機関の事例から
金融庁が発表した新年度の機構・定員要求には、地域金融機関への検査機能を拡充する内容が盛り込まれました。検査に入った後で検査手法そのものを事後的に検証する新部署の設立、財務局との連携を図る企画官の設置検討など、検査の「質」を高める施策が並びます。財務省も各財務局の検査要員の増員を求めており、行政側が本腰を入れて体制整備に動いていることがうかがえます。
この背景にあるのが、いわき信用組合(福島県いわき市)やウリ信組(札幌市)で明るみに出た、長期間にわたる不正です。いずれも一度や二度の不正ではなく、長い年月にわたって発覚しなかった点が共通しています。
なぜ不正は「長期化」するのか
不正は発生した瞬間よりも、発覚しないまま継続する期間の長さが被害を拡大させます。ACFE(公認不正検査士協会)が繰り返し伝えているとおり、不正の発生には「動機・プレッシャー」「機会」「正当化」という3つの要素が揃うという、いわゆる不正のトライアングル理論があります。
地域金融機関のような、地域社会との距離が近く、同じ担当者が長期間同じ業務を担いやすい組織では、特に「機会」の要素が育ちやすい土壌があります。チェック機能が形式的になっていたり、内部の人間関係を理由に牽制が働きにくかったりすると、不正は発見されないまま静かに積み重なっていきます。
外部検査の強化だけでは足りない
今回の金融庁の動きは、検査する側の手法を検証し、精度を高めようとする点で意義のある一歩です。しかし、外部からの検査はあくまで事後的なチェックであり、不正の芽を早期に摘む役割としては限界があります。
本質的な予防策は、組織の内側に不正を許さない仕組みと文化を根付かせることです。具体的には、
- 定期的なジョブローテーションによる「機会」の低減
- 内部通報制度の実効性確保
- 現場任せにしない独立した内部監査機能
- 不正リスクを定量的に把握する診断・アセスメントの実施
といった取り組みが、検査当局の目が届く前に不正を発見・抑止する力になります。
ACFE JAPANとして伝えたいこと
検査体制の強化はもちろん歓迎すべき動きですが、それに安心して自組織の予防体制を後回しにしてしまっては本末転倒です。今回のニュースを、自組織の内部統制やモニタリング体制を見直す一つのきっかけとして捉えていただければと思います。
不正を「起きてから対処する」のではなく、「起きにくい組織をつくる」ために。CFE(公認不正検査士)の知見が、その一助となれば幸いです。