一般社団法人 日本公認不正検査士協会

ACFE JAPAN

NEW CFEコラム

小さな噓が、大きな代償に ― 危機対応における「誠実性」を考える

先日、秋田県庁で行われた記者会見をめぐり、県の担当者が事実と異なる説明をしていたことが明らかになりました。オンライン会見中の服装や喫煙が問題視された当初の報道に続き、後日、本人が県への聞き取りに対して行っていた説明――体調不良で自宅療養中だった、無意識にたばこを吸ってしまった――が、実際の状況とは異なっていたことが判明。最終的に処分は停職6カ月・2階級降格という、当初の想定を大きく超える重いものとなりました。

問題の本質は「行為」ではなく「説明」にある

この一件で注目したいのは、服装や喫煙そのものよりも、最初の説明が事実ではなかったという点です。不正調査の実務に携わる私たちからすると、非常に見覚えのある構図ではないでしょうか。

最初の小さな綻び(本件では会見での振る舞い)

それを取り繕うための、その場しのぎの説明

説明の矛盾が後に発覚し、当初より大きな信頼失墜を招く

これは、横領や粉飾決算など、いわゆる「不正」の典型的な展開とも重なります。不正そのものよりも、発覚後の虚偽の説明・隠蔽行為が、組織の信頼を決定的に損なうケースは少なくありません。「クライム(不正行為)よりカバーアップ(隠蔽)の方が罪が重い」とは、不正調査の世界でしばしば語られる言葉ですが、今回の一件はまさにその典型例と言えるでしょう。

なぜ人は、事実を歪めてしまうのか

不正のトライアングル理論(動機・機会・正当化)に照らせば、今回のケースにおける「虚偽説明」の背景には、次のような心理が働いていた可能性があります。

動機:立場や体面を守りたいという心理的圧力

機会:聞き取りの場で、事実を確認する術が限られていたこと

正当化:「これくらいなら」「詳細を話さなくても」という軽微な合理化

重要なのは、こうした心理は特別な人だけに生じるものではなく、程度の差こそあれ、誰もが置かれうる状況だという点です。だからこそ、組織として「正直に報告しても不利益を過度に受けない仕組み」や、「初動対応における事実確認の徹底」が、日頃から求められます。

組織として学べること

今回の事案は地方自治体のものですが、企業においても示唆は共通しています。

初期対応の正確性が、その後の信頼を左右する  危機発生時、最初の説明が不正確であれば、後の火消しはより困難になります。

事実確認のプロセスを、聞き取る側も備えておく  説明を鵜呑みにせず、裏付けを取る姿勢が、組織を守ることにつながります。

「正直な報告」を罰しすぎない文化  過度に厳しい処分文化は、かえって事実の隠蔽を助長するリスクがあります。

おわりに

ACFE JAPANが養成するCFE(公認不正検査士)に求められるのは、不正そのものを裁くことではなく、事実を客観的に見極め、組織が同じ過ちを繰り返さないための仕組みづくりを支援することです。今回の一件も、個人の資質の問題として片づけるのではなく、「なぜ事実と異なる説明がまかり通ってしまったのか」「組織はそれをどう検証すべきだったのか」という視点で捉え直すことに、私たちの専門性が活きるのではないでしょうか。

CONTACT

入会申し込み 相談・お問い合わせ