金融庁「検査企画室」新設に見る、不祥事対応から予防型検査への転換
金融庁が、金融機関に対する検査の司令塔となる「検査企画室」(仮称)を新設する方向で調整を進めていることが明らかになりました。地方の信用組合において不正融資などの不祥事が相次いで発覚したことを踏まえ、体制強化を急ぐ狙いがあるとされています。ACFE JAPANといたしましても、この動きを不正検査の観点から捉え直してみたいと思います。
「育成庁」路線がもたらした検査機能の空白
金融庁は2018年に、バブル崩壊後の不良債権処理で大きな役割を果たした検査局を廃止し、金融機関の収益力向上に力点を置く「金融育成庁」路線へと大きく舵を切りました。この方針転換自体は、金融機関の経営基盤強化という観点からは合理性のあるものだったと言えるでしょう。
しかしながら、いわき信用組合(福島県いわき市)における反社会的勢力への資金提供や、ウリ信用組合(札幌市)における元役員による預金の着服など、地域金融機関で相次いで発覚した不祥事は、検査機能の縮小が思わぬ副作用を伴っていたことを示しています。不正検査の世界では、統制環境が緩めば、動機や正当化を持つ者にとっての「機会」が広がることがよく知られています。監視の目が薄れた領域は、まさに不正が根を張りやすい土壌となってしまうのです。
「専門性」と「継続性」への着眼
今回新設が検討されている検査企画室は、検査手法の検証・改善、中長期的な人材育成、そして重点検査領域の指示などを担うとされています。あわせて、全国の財務局への「専門検査官」の配置も検討されているとのことです。
この構想の中で特に注目すべきは、単発の検査強化にとどまらず、検査という機能そのものの「専門性」と「継続性」を組織的に担保しようとしている点です。不正の発見や抑止には、現場の実態を見抜く経験の蓄積と、それを次の世代へと引き継いでいく仕組みが欠かせません。過去の検査局廃止によって失われかねなかったこうした知見の継承を、あらためて制度として立て直そうとする試みと見ることができるでしょう。
予防のための「仕組み」としての検査体制
不正検査の実務においては、不祥事が起きてから調査・是正を行う「事後対応」だけでなく、リスクの高い領域をあらかじめ見極め、重点的に目を配る「予防的な監視」の両輪が重要とされています。今回の検査企画室構想は、まさにこの予防的な機能を、司令塔という形で組織内に位置づけ直そうとする取り組みと言えます。
政府が本年7月に策定した金融戦略においても、地域金融機関に対する検査・監督機能の強化が掲げられており、今回の動きはその流れに沿ったものです。個別の不祥事への対処にとどまらず、検査という機能そのものをどう設計し直すかという、より構造的な議論に踏み込んでいる点に意義があると考えられます。
おわりに
今回の一連の不祥事は、収益性を重視する経営支援と、不正を見抜き未然に防ぐ検査機能とが、決してトレードオフの関係にあるわけではないことを、あらためて示すものとなりました。両者を車の両輪として機能させるための組織設計こそが、今、金融庁に求められているのではないでしょうか。ACFE JAPANは、こうした検査・監督体制のあり方についても、不正防止の実務知見を通じて社会に貢献してまいりたいと存じます。