一般社団法人 日本公認不正検査士協会

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ISO 9001改定が問いかける「品質不正」への備え

10年ぶりの改定が意味するもの

ISO 9001は2015年の改定以来、約10年ぶりに改定されます。2026年9月に正式発行が予定されており、発行から3年以内に移行審査を完了する必要があります。JQA(日本品質保証機構)は今回の改定のポイントとして、①組織の状況、②品質における新たなトレンド、③品質保証・品質管理の強化、④リスク及び機会/変更の管理、⑤サプライチェーン、⑥附属書SL(調和構造)の6点を挙げています。

条文の細部を確認する前に、まず注目したいのは②の「品質文化」と「倫理的行動」が新たに明記された点です。ACFE JAPANの立場から見ると、これはこの10年間で相次いだ品質不正・検査不正の反省を色濃く反映した改定だといえます。

なぜ「品質文化」が明文化されたのか

これまでも品質マネジメントシステムは、手順書や記録といった「仕組み」を整備することに主眼が置かれてきました。しかし、仕組みが整っていても不正は起きます。検査データの改ざん、未実施検査の実施報告、顧客仕様との不整合の黙認――こうした事案の多くは、「手順が存在しなかった」のではなく、「手順を守れない現場の力学」が背景にありました。

納期優先の圧力、現場に権限のないトップダウンの号令、声を上げにくい組織風土。これらが重なると、たとえ検査手順書が存在していても、それを無視する、あるいは形骸化させる行為が常態化してしまいます。今回の改定でトップマネジメントに「品質文化の維持」が求められるようになったのは、規格自体が「仕組みだけでは不正は防げない」と認めたことを意味します。

不正のトライアングルから見る改定のポイント

不正調査の基本理論である「不正のトライアングル」は、不正が①動機・プレッシャー、②機会、③正当化の3要素が揃ったときに発生すると説明します。今回の改定内容は、この3要素それぞれに対応していると読み解くことができます。

  • 動機・プレッシャーへの対応:品質文化・倫理的行動の明記は、納期偏重の圧力が不正の動機を生む構造そのものに切り込もうとする動きです。
  • 機会への対応:「6.1.2 リスクへの取組み」「6.1.3 機会への取組み」の分離、変更管理における「変更結果のレビュー方法」の追加は、不正が入り込む隙(機会)を継続的に点検する仕組みの強化といえます。
  • 正当化への対応:文書に「利用可能でなければならない」という要件が加わったことは、記録が形骸化し「どうせ誰も見ない」という正当化の温床になることを防ぐ狙いがあると考えられます。

企業がいま着手すべきこと

移行審査のピークは2027年末~2028年と予測されており、時間的な余裕はあるように見えます。しかし、品質不正の防止は審査対応だけで完結する話ではありません。ACFE JAPANとしては、次の3点を早期の検討事項としてご提案します。

  1. 現場の「声を上げやすさ」の点検 品質文化の維持は精神論では実現しません。内部通報制度や現場からのエスカレーションルートが実質的に機能しているかを見直すことが出発点になります。
  2. 文書の形骸化チェック 「利用可能でなければならない」という新要求は、裏を返せば「作っただけの文書」が横行してきた実態の裏返しでもあります。検査記録や手順書が実際の現場運用と一致しているか、今回の改定を機に棚卸しする価値があります。
  3. 変更管理におけるレビュー体制の強化 仕様変更や工程変更が起きた際、それが不正の温床(検査の抜け穴)にならないよう、変更のコミュニケーションと効果検証の仕組みを整えることが求められます。

おわりに

ISO 9001:2026は「大幅な変更はない」と評価されていますが、品質文化・倫理的行動という言葉が規格に明記された意味は小さくありません。これは、品質マネジメントの成否が制度設計だけでなく組織の風土や個人の行動に左右されるという、不正調査の現場が長年指摘してきた事実を、国際規格自体が認めたとも言えます。

移行審査への対応を機に、自社の品質保証体制が「仕組み」だけでなく「文化」として不正を防げているか、あらためて問い直してみてはいかがでしょうか。

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